庭の片隅や植木鉢の下、湿った落ち葉だまりの中。そんな目立たない場所に、小さな「エビみたいな虫」が暮らしていることをご存知でしょうか。彼らの名前はヨコエビ(陸生端脚類)。体長わずか数ミリから1センチほどの小さな甲殻類ですが、その生態は驚くほどたくましく、そして私たちの足元の環境にとって重要な役割を担っています。ヨコエビは、その名の通り体が左右に平たく、横向きになって歩く(ように見える)ことから名付けられました。多数の脚を持ち、体を丸めることができます。彼らの最大の特徴の一つが、驚異的な跳躍力です。危険を感じると、腹部にある尾扇(びせん)と呼ばれる器官を使って地面を強く蹴り、自身の体長の何倍もの高さや距離を跳躍します。この能力により、捕食者から素早く逃れたり、移動したりすることができるのです。この跳ねる動きが、エビとは似つかない印象を与え、「虫」と誤解される原因にもなっています。食性としては、主に腐植栄養性、つまり枯れた植物や落ち葉、菌類などを食べて生活しています。彼らは湿った環境を好み、乾燥には非常に弱い生き物です。そのため、日中は石の下や土の中など、湿度が保たれた場所に隠れており、夜間や雨の後などに活動が活発になります。ヨコエビの存在は、土壌生態系において非常に重要です。彼らが落ち葉などの有機物を食べることで、それらは細かく砕かれ、微生物による分解が促進されます。これは、森林や庭の土壌を豊かにし、植物の成長を支える上で欠かせないプロセスの一部なのです。いわば、彼らは「土壌の小さな掃除屋さん」であり、物質循環の縁の下の力持ちと言えるでしょう。また、ヨコエビ自身も、クモやムカデ、鳥など、より大きな動物たちの餌となることで、食物連鎖の一端を担っています。普段私たちの目に触れることは少ないかもしれませんが、足元の土の中では、ヨコエビのような小さな生き物たちが複雑に関わり合い、健全な生態系を維持しています。次に庭で彼らを見かけても、単なる不快な虫として見るのではなく、地球の環境を支える小さな隣人として、少しだけ温かい目で見守ってみてはいかがでしょうか。