卵鞘というゴキブリの巣
ゴキブリの巣の問題を語る上で、決して避けて通れないのが「卵鞘」の存在です。これは、ゴキブリの卵が詰まった硬いカプセルのようなもので、彼らの繁殖戦略における最終兵器とも言える厄介な代物です。多くの人は、殺虫剤で成虫を駆除すれば一件落着と考えがちですが、巣の近くにこの卵鞘が残っている限り、悪夢は決して終わりません。卵鞘の表面は非常に硬い殻で覆われており、一般的な殺虫剤の成分をほとんど通しません。そのため、燻煙剤などで部屋中を燻したとしても、卵鞘の中の卵にはダメージを与えることができず、しばらくすると何事もなかったかのように新たな世代が孵化してしまうのです。日本の家庭でよく見られるチャバネゴキブリの場合、一つの卵鞘の中には約二十から四十個もの卵が入っています。つまり、たった一つの卵鞘を見逃すだけで、数週間後には数十匹の幼虫が家の中に解き放たれることになるのです。これが、一度駆除したはずなのに、またゴキブリが現れる大きな原因の一つです。卵鞘は、家具の裏側や引き出しの奥、段ボールの隙間など、人目につきにくく安全な場所に産み付けられます。もし巣の近くでこの小豆のような物体を発見したら、決してティッシュで摘んでゴミ箱に捨てるだけではいけません。ゴミ箱の中で孵化する可能性があるからです。ビニール袋に入れて物理的に潰すか、熱湯にかけるなどして、確実に中の卵を死滅させる必要があります。この卵鞘を確実に処理することこそが、ゴキブリの巣を根絶やしにするための最後の、そして最も重要な仕上げなのです。