あれは数年前の大寒波が訪れたある冬の日のことでしたが私は寒さに震えながらキッチンで温かいココアを作ろうとしてふと冷蔵庫の足元に埃が溜まっていることに気がつき普段なら見過ごすような些細な汚れでしたがなぜかその時は徹底的に掃除をしようという気まぐれを起こしてしまいました。重い冷蔵庫を苦労して少し前にずらし懐中電灯で隙間を照らした瞬間私は自分の目を疑い心臓が止まるかと思うほどの恐怖に襲われましたが、そこには夏の虫だと思い込んでいた巨大な黒いゴキブリがコンプレッサーの熱で暖められたモーター部分に張り付くようにしてじっとしており、その周囲には黒い粒のような糞が散乱しているという地獄のような光景が広がっていたのです。私は悲鳴を上げることもできずただ呆然と立ち尽くしていましたが彼らは冬眠しているわけではなく単に活動を最小限に抑えてエネルギーを節約しているだけであり私が光を当てた刺激でゆっくりと触角を動かしたその姿は活発に動き回る夏場のそれよりも不気味で底知れぬ生命力を感じさせるものでした。慌てて殺虫スプレーを取りに行き震える手で噴射しましたが寒さで動きが鈍っているせいか逃げ回ることもなくその場で苦しみながら絶命していく姿を見て私は冬だからといって油断していた自分の認識の甘さを痛感させられました。それ以来私は冬になるとどんなに寒くても定期的に冷蔵庫や食洗機の裏側をチェックするようになりましたが、あの時目撃した静かに熱を吸収しながら生き延びる彼らの姿は今でもトラウマとして脳裏に焼き付いており冬こそが見えない敵との戦いの本番なのだと自分に言い聞かせています。