あれは、一人暮らしを始めて間もない夏の夜のことでした。その日、私はキッチンのシンク下にある収納スペースを整理しようと思い立ちました。普段はあまり開けることのない、配水管が通っている奥まった場所です。扉を開けると、少しカビ臭いような嫌な匂いがしました。奥の方にしまい込んでいた古い鍋を取り出そうと手を伸ばした瞬間、視界の端で何かがサッと動いたのです。心臓が跳ね上がりました。スマートフォンのライトを照らしてみると、そこには信じられない光景が広がっていました。配水管の周りの薄暗い空間に、黒い点々が無数にこびりついていたのです。そして、その点々に混じって、大小さまざまな大きさの黒い影が蠢いていました。それは紛れもなく、ゴキブリの群れでした。私が光を当てたことに驚いたのか、数十匹はいるであろうゴキブリたちが一斉に四方八方へと散らばり始めました。その素早い動きと羽音に、私は声にならない悲鳴を上げ、その場にへたり込んでしまいました。そこが彼らにとっての巣、安全なアジトだったのです。暖かく、湿っていて、すぐ近くには水も食料もある。彼らにとってはまさに楽園だったのでしょう。この日を境に、私は家の清潔さを徹底的に見直しました。あの恐怖を二度と味わいたくない一心で、侵入経路を塞ぎ、餌となるものを断つ努力を続けました。一匹のゴキブリの背後には、想像を絶する数の仲間が潜んでいる。その事実を、私は身をもって体験したのです。